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- 『住まいづくり 120のヒント』刊行インタビュー
- 髙田 一さん(『住まいづくり 120のヒント』著者)
インタビュアー:山川隆之(吉備人出版担当者)
お礼と感謝をアーカイブに込めて
本は40年間の集大成
- 山川
『住まいづくり120ヒント』はもともと雑誌に連載されたコラムでした。
最初から本にする予定があったのでしょうか。- 髙田
いずれは住まいづくりについての自分の本を出版したいとずっと思ってきました。
考え方や思いを伝えるには、やはり一冊の本の形がいいですし、ぜひ本屋に置いてもらえるものをつくって、不特定多数の人に読んでいただきたかった。
それがようやくできたので、うれしいですね。住まいに関する本はさまざまなものがありますが、僕が本当にみんなに知ってほしいことをまとめた、住まいづくりの基礎になるような本は見つかりません。
そこで、僕のノウハウを連載してきたコラムを一冊にまとめて、自分にしかできない、他にはない住まいづくりの本を目指して取り組みました。
雑誌の連載は月に1回で、5年間60回分がたまったところで一度冊子にまとめました。
それからまた5年が経ち、あらためて合計10年分をまとめたのが『住まいづくり120のヒント』になります。40年間ずっと設計し続けて、住宅を260ほど手掛けてきた、その集大成です。
- 山川
髙田さんがどうしても言いたかったこと、住まいづくりでいちばん大切なこととは。
- 髙田
長く住み続けられる家、時の経過とともに味わい深くなっていく家が理想です。
もちろん見た目も重要で、重みのある家がいいですね。そういう家づくりをしたいなと思っています。
いちばん大切なのは、その家に住んで精神的に安心できることです。
住まいは毎日の居場所であり、精神的な拠り所ですから、そこに住んでいる人に大きな影響を与えます。
親が選んで建てた家が、子どもの人格形成などにも大きく影響するわけで、ぜひ「影響するに値する家」をつくりたいという思いがある。居心地がいい家というのは、それだけ家から学ぶもの、教えられるものが多いわけで、どうすればそんな家になるのかをこの本の中心のテーマにしています。
いまの住宅をみていると、あまりにも軽くなりすぎていると感じます。
失われつつあるけれど、失ってはダメなもの、日本の住まいとして欠かせない要素がたくさんある。
それをしっかりとこの本で表現したつもりです。
本の力はすごいな
- 山川
本ができてから、手にした方々の反応はいかがでしたか。
- 髙田
やはり本の力はすごいなと実感しましたね。
周囲の身近な人たちや、家をつくらせてもらったお客さん、同業者の方からも「読んだよ」という声をいただいて。
また東京や大阪など遠方からも「Amazonで買って読んだよ」と連絡がありました。とくに同業者には「すごいね。どこにそんな時間があったの。自分にはとてもできない」と、みなさん褒めてくださり、ありがたいです。
なかには、住宅も手掛けているゼネコンさんから「ぜひ100冊まとめて買いたい」という申し出までありました。
本を読んでくださった社長さんが、ぜひ従業員みんなに読ませたいということで、100冊を全員に配ってくださった。
聞けば、従業員教育の中でこうした内容を細かく教えることはむずかしいから、この本がちょうどよかったとのこと。
みなさんしっかり読んでくださったそうで、それを聞いたときは感動しましたね。この本が売れるかどうかよりも、自分の思いを本にして、それが自分の知らない方にまで届いて読んでもらえ、いい反響があったということが、いちばんありがたいなと思っています。
- 山川
この本をどんな方に読んでもらいたいですか。
- 髙田
これから住まいを作る方に読んでほしいのはもちろんなのですが、そもそも住まいづくりというのは、家を建てるまでのプロセスだけで終わりではないんです。
むしろ、家を建ててからが本当の住まいづくりのスタートだといえます。
ですから、ぜひ住み始めてからでもこの本を参考にしていただきたいです。
思った以上の反応
- 山川
『住まいづくり120のヒント』と併行して、アーカイブをつくられました。
- 髙田
『住元建築研究所アーカイブ』は弊所の40周年の記念事業として企画したものです。
全部で約750の物件があるんですが、それらをすべて振り返ってみて思うのは、やはり、大勢の設計士がいる中から、これだけ多くのお客さんが私を選んでくださったんだなということです。
そのありがたみを改めて実感しました。40年以上やってきた歩みを振り返る目的ももちろんありましたが、すべてのお客様をはじめ、ここまで私を引っ張ってくださった方々へのお礼と感謝の意味を込めてつくったアーカイブでもあります。
これはまさに僕の経歴書です。
40年間こういうことをやってきましたというのが、この本を見せるだけで伝えられるのがいいですね。
いつもクルマに積んでいて、出会う人に差し出して見てもらっています。
自分が想像していた以上にいいものが、すごく便利なものができたなと感謝しています。- 山川
四十数年の建築家人生を振り返って、いかがですか。
- 髙田
悔いなし、ですね。
よくこれだけのものをやったな、という思いがある。
でもこれは自分の力だけではなく、お客様をはじめ、周りのみなさんがいてはじめてできたことです。じつはこの40年間、営業らしいことはほとんどしてこなかったんです。
なにもない中でのスタートでしたが、少しずつ広げてきた人脈・ネットワークが連鎖して、次から次へとお客さんを呼び合って、ひとつの波になって僕に仕事がやってくるようになりました。
いま、そのお礼と感謝の気持ちを、あらためてみなさんにお伝えしたいですね。家は作って終わりじゃなくて、やがては修理が必要になったり、住む人の構成が変わってリフォームすることになったりする。
ですから、一つひとつの仕事は細かい内容まですべて覚えていますし、議事録もデータも図面も、40年分すべて残してあります。
お客様とは、住まいづくりを通じて生涯のおつきあいをする。
だから僕の人生そのもの。そこに命をかけています。僕は、建築は住宅に始まり住宅に終わると思っています。
住宅がすべての元(もと)、原点だと。
「住元」という事務所の名前もそこからとりました。- 山川
施主と建築家の気心が合うかどうかは大切ですね。
じつは私たちがつくる本も建築と同じで、著者と編集者の意思疎通がうまくいかないといい本はできません。- 髙田
もともと吉備人出版は『おかやまの建築家』などで取材に来てもらったりしてよく知っていましたし、本をつくろうと考えたときにもいちばんに思いあたって連絡しました。
こちらで準備しなければならないデータなどいろいろと丁寧に教えていただいて、こちらが想像していた以上の良いものができたとありがたく思っています。
とくにアーカイブの表紙の評判が良くて、これを見て「欲しい」という方も多かった。
いろんな方から反響をいただいて、とても満足しています。
本当にお世話になりました。
著者略歴
- 髙田 一(たかた はじめ)
有限会社住元建築研究所代表取締役。昭和22年倉敷市生まれ。
昭和47年東京理科大学大学院修士課程工学研究科修了。
昭和47年株式会社関西設計大阪本社入社。
昭和56年有限会社住元建築研究所設立。建築設計監理、住まいの相談、まちづくり活動、耐震診断、耐震補強設計など幅広く手がける。
住宅から社寺建築まで、あらゆる建物の設計を行っており、特に木造が得意。
住宅は43年間で260軒を手がける。日本の伝統的な知恵や技術を生かし、自然素材や身近なところにある素材を利用して、周囲の景観にマッチした、人と建物と環境にやさしい住まいをつくっている。